第373回例会報告

高分子分析研究懇談会 第373回例会(夏期合宿)ぶんせき誌報告

 高分子分析研究懇談会第373回例会(夏期合宿)が、74日・5日の2日間にわたって静岡県伊東市のラフォーレ倶楽部 伊東温泉 湯の庭にて開催された。梅雨時の開催とあって天候が懸念されたが、当日は天気にも恵まれ、45名の参加者の下、2日間にわたり4件の講演と分科会が行われた。

初日1330分から、副委員長の百瀬 陽氏(三菱レイヨン)の挨拶で合宿が開始された。

はじめに、河原成元氏(長岡技術科学大学)による「ラテックスNMR法およびFG-FMAS固体NMR法によるゴム状高分子の構造解析」の講演が行われた。まず、ラテックスNMR法とFG-FMAS固体NMR法の原理が紹介され、次いで、それらの方法によりゴム試料の高分解能測定を達成するために、数々の測定パラメーターを最適化した経緯が説明された。さらに、実際の分析例として、架橋天然ゴムの高分解能NMR測定に基づいて、その分子鎖の運動性や架橋点の構造を実験的に解明した内容が紹介された。こうした「ゴムのための高分解能NMR法」の開発は、ソフトマテリアルの構造解析の分野に大きなブレークスルーをもたらすものであり、今後、ゴムの基礎研究が飛躍的に発展することが期待される。

次に、長澤忠広氏(ライカマイクロシステムズ)による「形態観察,局所分析のための試料作製 〜意外と知らない試料前処理〜」の講演が行われた。形態観察や局所分析を成功裏に行うためには、試料切片の作製はもとよりそれに先立つ試料調製プロセスの適正な実施が重要であることは論をまたない。本講演では、包埋、染色や凍結などの試料前処理技術、およびミクロトームによる切片作成技術を、豊富な経験に基づくノウハウやコツも多く交えながら解説された。さらに、ポリマーとハードマテリアルとの複合材料の試料調製に威力を発揮するイオンミリング法の原理と応用例が説明され、形態観察および局所分析をめぐる最新の動向も併せて紹介された。続いて、今回初めての試みとして、夕食後の分科会討論に向けたプレゼンテーションが行われた。今回の分科会では、前述した2件の講演に関連する「ANMR」と「B:形態観察」に「C:高分子分析の諸問題」を加えた3テーマが設定され、それらの討論のための呼び水として中村有希氏(旭硝子)[ANMR]、伊藤 純氏(三菱レイヨン)[B:形態観察]と西本ゆかり氏(日本合成化学工業)[C:高分子分析の諸問題]3氏からそれぞれのテーマに沿って問題提起を中心とするプレゼンテーションが行われた。このプレゼンテーションによって議論内容が鮮明になったことも相まって、夕食後に3分科会に別れて行われたグループディスカッションでは、例年になく活発な議論が展開され、約1.5時間にわたって意見交換が為された。分科会終了後、場所を変えて交流会が開催された。若手からベテランまで幅広い層の参加者が互いに交流し合い、夜遅くまで熱い学術的・技術的議論が交わされていた。

2日目、まず、講演に先だって、前夜の分科会討論の内容報告が、それぞれのグループの司会進行を担当した曽我部啓介氏(カネカテクノリサーチ)、武田康助氏(花王)と星 貴洋氏(日本化薬)により行われた。報告に加えて、フロアーからの質疑や討論も随時為され、昨夜の議論内容をさらに掘り下げる形で情報共有を図ることができた。特に、分科会[C:高分子分析の諸問題]の報告では、「この研究懇談会こそが、高分子分析をめぐる諸問題を解決する場である」という力強いメッセージも発せられ、当該分野における本懇談会の位置づけを参加者間で再確認することができた。続いて、六田充輝氏(ダイセル・エボニック)による「ダイセル・エボニックの高分子の異種材料接着技術について」の講演が行われた。まず、ポリフェニレンエーテル(PPE)などの樹脂とスチレン系や過酸化物架橋系などのゴム間の接着メカニズムを、電子顕微鏡、シミュレーションおよび化学分析などの多用な方法論を駆使して実証した研究例が解説された。さらに、ポリアミドと熱可塑性ポリウレタン間の界面を例にとり、接着メカニズムについて得られた知見から、その樹脂‐ゴム界面の作製行程の改善や、接着強度の向上を実現した事例が紹介された。いずれの例も、分析による接着機構解明に留まらず、そこから接着技術開発の向上を指向するものであり、企業における分析化学の重要性を改めて認識させる内容であった。

最後に、篠原健一氏(北陸先端科学技術大学院大学)による「ポリマー1分子の直視:高分子鎖一本のイメージングと顕微機能解析」の講演が行われた。まず、およそ5/秒のスキャンを可能にした高速AFM装置の開発に関する内容が概説された後、その装置を利用して、高分子の1分子イメージングを実現した成果が、実際の映像と共に説明された。さらに、画像解析技術の併用により、キラルらせんポリマーの高次構造の詳細な解析例や、光分解反応の過程をリアルタイムで追跡した研究例が紹介された。ここでの内容はポリマーの接着機構や動態の解明といった材料開発に貢献するだけでなく、今後、分子マシンや分子モーターなどのバイオ関連の新規動力の開発にも繋がるものであり、大変、夢のある講演であった。その後、運営委員長の佐藤信之氏(東レリサーチセンター)による閉会挨拶とそれに引き続く記念撮影・昼食会を経て本会は解散となった。最後に、講師の先生方、参加された皆様のご協力に深く感謝するとともに、幹事として企画運営を担当していただいた百瀬 陽氏(三菱レイヨン)、鈴木俊夫氏(旭硝子)、西本ゆかり氏(日本合成化学工業)の尽力にお礼を申し上げたい。






 

(中部大学  石田 康行)



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