第363回例会報告

  高分子分析研究懇談会第363回例会(夏期合宿)が、6月29日・30日の2日間、神奈川県三浦郡葉山町の湘南国際村センターにて開催された。梅雨時の開催で雨天が懸念されたが天候に恵まれ、44名の参加者の下、2日間にわたり5件の講演と、3テーマの分科会によるグループディスカッションが行われた。

 本会運営委員長である衣笠晋一氏(産総研)が都合によりあいにくの欠席となったため、初日13時30分から、副委員長の渡辺健市氏(豊田合成)の挨拶で合宿が開始された。

 はじめに、池田裕子氏(京都工芸繊維大学)による「ソフトマター架橋ゴムの特性」の講演が行われた。シンクロトロン放射光や小角中性子散乱を用いた天然ゴムの伸長結晶化解析についてお話いただいた。放射光測定より、過酸化物架橋体と硫黄架橋体が異なった伸長結晶化挙動を示すことがわかり、これは網目鎖密度の違いによると考えられると紹介された。また、硫黄架橋では硫黄の配合量によらず網目の大きさが一定であり、網目形成には加硫試薬である酸化亜鉛の量が影響するというのは大きな驚きであった。

 次に、平修氏(北陸先端科学技術大学院大学)による「ナノ微粒子−質量分析(Nano-PALDI)法による生体組織、食品分析の紹介」の講演が行われた。様々な有機マトリクスが開発されMALDI-MSの進展は著しいが、マトリクスのシグナルに埋もれてしまうため低分子測定に適さないという課題がある。この課題を解決する手法として、無機ナノ微粒子を新たなマトリクスとして利用する研究が紹介された。ナノ微粒子の粒径・コア成分・表面修飾を検討し、分子を選択的にイオン化する技術が示された。“5年後の生体試料の非破壊測定を目指す”との目標を掲げられており、高い志が感じられた。

 初日最後は、長谷川利則氏((株)日産アーク)による「『観る』 『診る』 『看る』イメージングIR による高分子材料の可視化解析技術」の講演が行われた。イメージングIRにより、材質・組成や変質・劣化、高次構造、さらに樹脂流れ解析まで多岐に渡る分析が可能であることが示された。IRの豊富な分子化学情報を可視化でき、高い空間分解能を有し、画像を通じて情報の伝達・共有を図る有用なツールとして、社会からの需要は高く、今後ますますの発展が期待される。

 夕食後、講師の先生を中心に3つの分科会「A:放射光分析」「B:質量分析」「C:分光分析」に分かれてグループディスカッションが行われた。それぞれの分科会参加者は、9名、19名、11名に分かれ、約2時間にわたって活発な議論が展開された。

 分科会終了後、場所を変えて交流会が開催された。椅子が用意されていたものの、参加者はほぼ着席することなく語り合い、各所で熱い学術的・技術的議論が交わされていた。

 2日目、はじめに井上正志氏(大阪大学)による「光学的手法による高分子のレオロジー測定」の講演が行われた。レオロジーは、物質の変形と力の関係を扱う学問であるが、高分子分野では分子構造や相互作用で現象を理解し、分子運動が遅いことを考慮する必要がある。複屈折や高周波数粘弾性など光学的測定を用いた高密度分岐高分子、高分子ブレンド、ブロック共重合体について説明された。

 最後の講演は、松井利郎氏(九州大学)による「ポリマーへのにおいの移香現象」の講演が行われた。プラスチックフィルムへの移香(収着)挙動について紹介された。におい収着量はアレニウスの式に従うこと、分子サイズが小さいほど収着量が多いというわけではないこと、フィルムの結晶化度や凝集力、揮発性化合物とフィルムとの親和性、温度やpHのような外的環境因子を変化させることで収着が制御されうること、などが示された。GCやGC/MSで分析を行っているが、検出限界があり最終的にカラムを通した後は人の鼻が頼り。とのことだった。人間の体の解析精度の高さを感じた。

 すべての講演終了後、前夜に行われた分科会について、それぞれのリーダーから報告された。1日目の講演をさらに掘り下げる形で議論が展開され、参加者にとって非常に有意義な分科会であったと思われる。これをもって2日間の日程をすべて終了し、記念撮影・昼食会を経て解散となった。

 最後に、本例会(夏季合宿)の運営に微力ながら携わった一人として、皆様のご参加、ご協力に深く感謝し報告とさせていただく。
                                       (徳島大学 押村美幸)
 

 

 

 





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