第362回例会報告

 

高分子分析研究懇談会の第362回例会が、4月26日(木)に東京五反田の「ゆうぽうと」にて開催された。講演2件およびワークショップ2件が行なわれ、いずれも活発な議論がなされた。なお、参加者は60名であった。

 1件目は、武藤俊介先生(名古屋大学大学院)から「複合電子分光による物性画像診断とそのリチウム電池材料への応用」と題する講演が行なわれた。透過電子顕微鏡(TEM)と付随する複合電子分光法を活用したナノ・サブナノスケールでの物性発現機構の手法を、高分子化学関係者にも理解できるよう平易に解説いただいた。その後、現在注目を集めているリチウムイオン二次電池正極二次電池正極の充放電後の化学状態変化解析といった最先端の課題への適用事例に関して、多変量解析による解析例も含めて紹介があった。講演後は、リチウムイオン二次電池のサンプル作製に関する注意点、多変量解析のTEM以外への活用法についても活発な議論が交わされた。
 その後、1件目のワークショップで佐藤和彦氏(帝人株式会社)から「放射光で測る高分子の高次構造」と題する講演が行なわれた。高性能ポリイミド(ポリパラフェニレンピロメリットイミド:PPPI)単繊維の弾性率と第三世代の放射光を用いた結晶状態の評価に関する事例が紹介された。単繊維での結晶状態評価は、SPring8の高輝度X線とμmオーダーの分解能が実現可能なマイクロビームの特性を十分に生かしたものであり、高分子物性と高次構造の関係を明らかにする非常に強力なツールになると予感された。今後、放射光を活用しようとしている当研究懇談会会員にとっては特に有意義であったと思われる。
 ワークショップの2件目は、中島陽司氏(旭硝子)による「親フッ素-親油-親水バランス評価に基づいたフッ素系ポリマーのLC分析法開発」と題した内容であった。ポリマーのLC分析において、フッ素系溶媒のLC特性は従来法である親油-親水性指標では評価できていない。そこで親フッ素性も考慮に入れた親フッ素-親油-親水(FLH)バランス評価法が開発された。開発された手法であるODSカラムとフッ素修飾カラムを用いた2段階のHPLCによるlogPOW-logPPT(Perfluorodimethylcyclohexane/Toluene分配係数)測定法について実測例が示された。フルオロアクリレート/メチルメタクリレートブロックポリマーの測定結果から、移動相のFLHバランス値が固定相と試料のFLHバランス値と異なるほど、試料/固定相間エンタルピー的相互作用が強くなる傾向が認められた。
 続いて、2件目のワークショップは松本良憲氏(株式会社東ソー分析センター)から「SPMによる高分子材料の表面解析」と題する講演が行なわれ、高分子の表面解析で広く用いられるようになった走査型プローブ顕微鏡(SPM)を応用した表面化学状態の解析事例が紹介された。シリコン製のカンチレバー表面を化学修飾することで、ケン化度の異なるエチレン酢酸ビニル共重合(EVA)/PPのブレンドポリマー表面の水酸基の分布構造を明らかにでき、凝着力から水酸基の定量も可能となることが紹介された。
高分子材料最表面は、今後さらなる構造の微細化、機能化の付与が予想され、従来の凹凸測定に加えてSPMによる物性測定がますます発展していくことを期待させる講演内容であった。
 最後に、中沖隆彦先生(龍谷大学)から「高分子ゲルに束縛された溶媒分子の凝集形態とサイズ」と題する講演が行なわれた。結晶性高分子中に存在する有機溶媒の束縛状態を、示差走査熱量測定(DSC)、固体核磁気共鳴分光法(NMR)、中性子散乱測定により評価した。その結果、自由溶媒はサイズが大きいために球晶間に存在しているのに対し凍結束縛溶媒は球晶内のラメラ間の非晶領域に存在することが紹介された。また、非晶性高分子ゲル中の溶媒に関しても精力的な研究結果が示された。各種高分子の溶媒による膨潤状態の解析は、エンジニアリングの分野で大きな注目を集めており興味深い研究領域であると感じた。

 例会終了後には交流会が行なわれ、講師の方々を囲んで和気藹々とした雰囲気の中で会員相互の親交を深めた。
 

(株式会社 豊田中央研究所 光岡拓哉)



All Rights Reserved, Copyright (c) 2003, THE JAPAN SOCIETY FOR ANALYTICAL CHEMISTRY