第360回例会報告

 高分子分析研究懇談会の第360回例会が、12月6日(火)に東京五反田の「ゆうぽうと」にて開催された。講演2件およびワークショップ2件が行なわれ、いずれも活発な議論がなされた。なお、参加者は43名であった。

 1件目は、彦坂正道先生(広島大学大学院)から「高分子の伸長結晶化による“ナノ配向結晶体”発見 ―構造・物性と高性能化―」と題する講演が行なわれた。過冷却融液を押しつぶすことで融液伸長結晶化に成功した話から、ナノ配向結晶体(NOC)へと形態が変化する臨界伸長ひずみ速度とその前後での結晶状態観察結果(偏光顕微鏡イメージや電子顕微鏡イメージ、小角や広角のX線散乱パターン)、さらにDEN(Dense Entanglement Network:高密度絡み合いネットワーク)モデルについての紹介があった。ポリマー鎖の伸長メカニズムを「めんとつゆ」に例えるなど、非常に分かりやすく説明いただいた。講演後には、ポリマーの分子量や分子量分布、末端構造が結晶化に及ぼす影響に関する議論が活発に行なわれた。

 続いて1件目のワークショップは、嶋村三智也氏(株式会社クラレ)から「ポリマーの安全性とは?」と題する講演が行なわれた。ポリマーの安全性について法律的な側面と実用面での課題や事例について、生体障害事例や世界における法規制(TSCA、REACH)の内容とその動向などが、分かりやすく紹介された。研究開発や分析業務に従事していると、化学物質の安全性についてなおざりになってしまうことがあるが、十分に有害性・毒性を理解したうえで取り扱わなければならないことを改めて感じた。また、昨年改正された化審法に関する話題は、法人会員が多い当研究懇談会の会員にとっては、特に有意義であったかと思われる。

 続いて2件目のワークショップは、曽我部啓介氏(株式会社カネカテクノリサーチ)から「誘導体化法を組み合わせた1H,19F-NMRおよびDOSYによるカルボン酸や水酸基を有するポリマーの構造解析」と題する講演が行なわれた。近年、溶液NMRの分野でDOSY(Diffusion Ordered SpectroscopY)は大変注目されており、盛んに研究が行なわれている。その中で演者は、1H-NMRで直接検出することは難しい水酸基やカルボキシル基を有するポリマーの−COOHや−OHを、種々の誘導体化法とNMRを組み合わせることでカルボン酸や水酸基を有するポリマーの組成と拡散係数分布を明らかしたことが報告された。今後は、架橋点や鎖延長点の分子量に対する組成分布分析にも取り組まれるとのことで、ますますこの分野が発展していくことを期待させる講演内容であった。 

 最後は、伊福伸介先生(鳥取大学大学院)から「生物より産出される「キチンナノファイバー」の単離技術とその利用開発」と題する講演が行なわれた。カニやエビの殻を原料として、まずは不要なものを除去した後に、マクロな繊維を解きほぐすし微細化することで、均一なナノファイバーが単離されていた。ナノファイバーは10−20nmときわめて細く、また均一であり、かつ非常にアスペクト比が高く、この様子を示した電子顕微鏡イメージにはとても驚かされた。これまで捨てられていたものから簡単に大量に作製でき、補強用フィラーとして用いた場合に透明性やフレキシビリティは維持したまま物性が向上するとのことで、非常に興味深い材料であると感じた。また誘導体化による機能性の付与の紹介では、脱アセチル化によるキトサンナノファイバーへの展開やアセチル化による疎水化、グラフト重合反応、などが報告された。

例会終了後には、忘年会を兼ねた交流会が行なわれ、講師の方々を囲んで、和気藹々とした雰囲気の中で会員相互の親交を深めた。来年は良い年であることを祈念して、散会となった。

(株式会社クラレ 山本洋史)





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