第357回例会報告

 高分子分析研究懇談会の第357回例会が5月10日(火)に東京・五反田の「ゆうぽうと」で開催された。今回は2011年度最初の例会ということもあり、まず初めに総会が行われ、本研究懇談会運営委員長の大関博氏(旭化成)より、2010年度の活動・会計報告、2011年度の運営委員の紹介、および2011年度の活動計画と収支予算について説明があり、いずれについても承認された。
 引き続いて講演2件とワークショップ2件の例会が行われた。1件目の講演は、千葉光一氏(産業技術総合研究所)による「RoHS指令とREACH規則―その最新動向とIEC/62321規格の現状」と題する講演が行われた。RoHS指令やREACH規則は、EUにおける環境保護と人の健康に対する保護などを目的として制定された先進的な取り組みである。しかしそのために、いくつかの課題や未解決の問題点も見受けられる。RoHS指令では、電気・電子機器中の鉛、カドミウム、水銀、六価クロム、および特定臭素系難燃剤のPBB、PBDEについての使用制限がかけられている。鉛、カドミウム、水銀については蛍光X線分析によるスクリーニングと精密化学分析が行われるが、六価クロムついては分析が難しいこと、さらに規制値は材料全体ではなく、クロメート膜中の含有量であることなどの課題について、わかりやすく解説された。特に法人会員が多い当研究懇談会の会員にとって、有意義な講演であった。
 今回のワークショップでは、昨年12月に行われたICPAC2010(「高分子分析及びキャラクタリゼーションに関する国際会議」兼「第15回高分子分析討論会」)において優秀な発表者に対して贈られる審査委員賞、またはポスター賞の受賞者による2件の発表が行われた。まず1件目は平野朋広氏(徳島大学)による「メタクリル酸エステル共重合体などのNMRスペクトルの多変量解析」と題した発表が行われた。共重合体の構造は平均的な組成比だけでなく、組成分布、モノマー連鎖、立体規則性など、様々な因子があり、これらを詳細に解析するためには多くの困難さを伴う。そこで演者らは、多成分共重合体の構造因子の定量的な情報を得るために、13C-NMRスペクトルの多変量解析を試みた。今回は、メタクリル酸メチル(MMA)−メタクリル酸-t-ブチル(TBMA)共重合体や、MMA−メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル(HEMA)−TBMA共重合体について、それぞれの単独重合体とブレンド試料の13C-NMRスペクトルから、スペクトルの帰属を行わずに共重合体の組成やモノマー連鎖分布の推定ができることを明らかにした。
 2件目のワークショップは、丹治範文氏(花王)による「局所熱物性測定に基づくポリマー積層膜界面の精密構造解析」と題する発表が行われた。ポリマーの熱分析としては、バルク全体では比較的広く行われているが、多層膜の界面のような局所における熱分析は容易ではない。このような局所的な熱分析については、カンチレバーを用いて試料を局所的に加熱するnano-TAが有効であるが、熱拡散に伴う空間分解能大きさの問題から、ポリマー界面の分析には十分有効であるとは言えない。そこで演者らは、試料の断面方向を斜め切削した後にnano-TAにより分析する方法を考案し、ポリマー界面の分析を試みた。今回は、ポリフェニレンオキシド(PPO)/ポリスチレン(PS)積層膜についてSAICAS法を用いて作製された斜め切削面について、ガラス転移点(Tg)の厚さ方向分析を行った結果が報告された。この系では、試料を熱処理することによって、PPO/PS界面ではTgの変化が緩やかとなり、見かけ上、PS膜厚が増加する傾向があるという結果が得られた。
 最後の講演として、西本右子氏(神奈川大学)による「高分子と水の関係を熱分析で探る」と題する講演が行われた。加熱によってゲル化するメチルセルロースヒドロゲル(MC)はポリエチレングリコール(PEG)の添加によってゲル化温度を制御できるという特徴を持つ熱可逆ゲルである。このMC-PEG中の水の状態について、DSC、近赤外分光分析、17O-NMR、および粘弾性測定を用いて解析を行った。その結果、ゲル化後に冷却してゾル状態に戻ったとしても、ゲル中の水の状態がある程度残ることを見いだした。この理由としては、PEGが疎水性基を外側に向けてMCの架橋点に存在し、疎水性相互作用するためと考えられる。このようなMC-PEGゲル中の水の挙動はMCやPEGの分子量の違いによっても異なるなど、非常に興味深い内容であった。
 例会終了後には、交流会が行われ、講師の方々を囲んで、和気あいあいな雰囲気の中、会員相互の親交が深められた。

(株)東ソー分析センター 香川信之




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