第356回例会 「高分子分析研究懇談会設立50周年記念講演会」報告

 3月9日、高分子分析研究懇談会設立50周年記念講演会として第356回例会が工学院大学新宿キャンパスで開催された(参加者65名)。まず、本研究懇談会運営委員長の大関博氏(旭化成)による開会挨拶があり、次いで50周年記念事業担当研究懇談会運営副委員長の大谷肇氏(名古屋工業大学)による「高分子分析研究懇談会の歴史と高分子分析の進歩」と題した講演がなされた。50周年記念誌と高分子分析討論会要旨集(第10〜15回)プログラム等を収めた記念CDの内容をもとに、これまでの本研究懇談会の歩みを紹介された。本研究懇談会が設立当初「高分子不純物研究懇談会」として始まったという懇談会の起源に関する話題から現在までの過程を、新しい会員にもわかりやすくご紹介頂いた。
 講演2件目として、石田康行氏(中部大学)より「様々な分解反応場を利用した高分子材料および生体試料のキャラクタリゼーション」の講演がなされた。50周年記念講演会ということで、自身の研究を紹介される前に高分子分析討論会における総発表件数および熱分解分析法の発表件数の推移を示しながら、装置面や応用面での研究の動向をレビューされた。次いで、その主要な分析法である反応熱分解GCの研究動向を取り上げられ、さらに市販の生分解性プラスチック(PBSA)の共重合組成分析において単なる熱分解GCよりも有機アルカリ試薬を用いた反応熱分解GCのほうが精密に分析できるという研究成果を示された。また、化学分解を使用した分析法についてもレビューされ、水熱プロセスを利用した架橋高分子材料のネットワーク構造解析などの研究例を紹介された。
 講演3件目には日本分析工業株式会社の大栗直毅氏に「クロマトグラフィーと共に歩んだ50年」と題してご講演頂いた。学生時代の「キシレンの異性化研究」から昭和40年の創業、それに続く装置開発の歴史を、着想のきっかけから開発過程の苦労話などを交えてお話頂いた。W. Shimonの論文(Chemie-Ing-Techn. Jahrg., 1965)が発端となり、論文を読んだその年のうちにキューリーポイント熱分解装置を開発してしまったこと。合金の種類によって温度が変わるので少量で様々なパイロホイルを試作検討したいのだが、業者が30-50kg単位でしかやってくれず苦労したこと。松本サリン事件(1994年)の時、毒ガス成分の分析のためキューリーポイントP&T(Purge and Trap)サンプラーを使わせてほしいと頼まれ、加水分解されやすいサリンが血液のヘモグロビン中で安定に存在することを見出し、実際にサリンがまかれたことの実証に大きく貢献したこと。その他、封管型溶媒抽出装置やリサイクルHPLCなどの装置についても、わかりやすくお話し頂いた。質疑応答では、今後起業を志す方へのメッセージとして、「起業する時期は、若ければ若いほど良い。ただし、情熱がなければ駄目である。大学の研究者は論文が残ればよいが、企業人はさらに売らなければならない、実にさびしいものである。ご自身の起業時と比べて今は多くの助成があるのだから、状況は良い。いつか明るい未来が来ると信じて、躊躇せず、とにかくスタートすることが大切である。」とご教授頂いた。大変印象的な講演であった。
 記念講演会最後の講演は化学物質評価研究機構の大武義人氏に「高分子材料が引き起こす宇宙開発事故と分析技術」と題してご講演頂いた。はじめに、自動車やロケット、宇宙船を例に挙げ、工業製品におけるゴム・プラスチック・接着剤の重要性とそれらの材料が過酷な使用条件に曝されているという事実が説明された。次に、劣化等の原因によりこれらの材料が期待通りの性能を発揮しなかった場合、様々な事故が誘発されてしまうことが示され、その事例としてスペースシャトルやH-IIロケットなどにおける宇宙開発事故が紹介された。このような材料に起因する事故を防ぐため、最近では各種酸化防止剤の開発による材料の長寿命化が積極的に行われており、その劣化挙動を理解・評価するために劣化の定量的分析手法が開発されている。例えば、ゴム中の酸化防止剤の分析にはGC-MSやLC-MSなどが用いられるが、重要なのは加硫ゴムからの抽出効率であり、十分に粉砕することが必要であるとのことであった。分析の結果、加硫ゴムに多用されるアミン系酸化防止剤の残存率は極めて低く、フェノール系やキノリン系が比較的高い残存率を示すことが明らかとなったとのことである。その他、保管中の湿気に伴う原料ポリマーの加水分解評価にはGPC法による分子量測定がよいが、TG法により10%重量減少する温度を測定することでより簡便に分子量が把握できること。加硫不足は一般の物性測定よりもDSCによって残存加硫反応熱を観察する方法が的確かつ迅速に把握できること。PC、PU、ABS樹脂、HDPE、PMMA、加硫ゴムの疲労劣化など、実に興味深い話題についてわかりやすく解説頂いた。
 講演会終了後には記念祝賀会が行われた。本研究懇談会運営委員長の大関博氏の挨拶、日本分析化学会会長中村洋氏(東京理科大学)からの祝辞、そして高山森(三菱化学アナリテック)による乾杯をへて祝賀会がスタートした。昔を懐かしむ和やかな雰囲気の中にも、本研究懇談会の更なる発展を語りあう大変有意義なひとときであった。

中部大学応用生物学部 堤内 要

 

 

 

 




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