第355回例会報告

 高分子分析研究懇談会第355回例会が、1月18日に五反田の「ゆうぽうと」で開催された。新年最初の例会にあたり、本研究懇談会運営委員長の大関博氏(旭化成)による挨拶があり、同運営副委員長の大谷肇氏(名古屋工業大学)による本年3月9日の本研究懇談会設立50周年記念講演会(第356回例会)・記念祝賀会の開催案内があった。例会では講演2件およびワークショップ2件が行われ、いずれも活発な質疑応答がなされた。
 講演1件目は、桑畑進氏(大阪大学・JST−CREST)による「イオン液体と真空技術を組み合わせた新しい分析法とナノ材料作成法の開発」の講演が行われた。イオン液体は常温で液体の塩であり、真空中での蒸気圧は無視できるほど小さい。またイオン液体自体に導電性があるために、電子線照射などによる帯電はしない。したがって電子顕微鏡、XPSなどの真空チャンバー中で導電性の電解液体として使用することが可能である。本講演は、高分子重合反応の電子顕微鏡観察、電気化学反応における反応種の濃度分布計測、イオン液体への金属スパッタによるナノ粒子合成、イオン液体アクチュエーター、反応種を溶かしたイオン液体に電子線や集束イオンビームを照射することによる金属や高分子のパターン析出など、真空での観察技術からナノ材料まで非常に拡がりのある内容であった。
 ワークショップ1件目は、佐藤崇文氏(日本電子)より「らせん軌道をもつ高分解能MALDI TOFMSによる共重合ポリマーの構造解析」と題して、同社で開発されたMALDI Spiral TOFMSの原理、特徴および測定例について講演が行われた。同社のSpiral TOFMSは従来のTOFMSと比べて実効飛行距離が長く、また、長い飛行距離でも軌道が広がらない独特のイオン光学系を有しているため、広い質量範囲で高い質量分解能と質量精度が得られる。本講演は、従来困難とされた1Da以内に多数のピークが出現するブロック共重合ポリマーに対して、1つのMSスペクトルで分子量分布と精密質量の両方を分析した事例や、同位体を完全排除したプリカーサーイオン選択による、シンプルで解析しやすいMS/MSスペクトルの分析事例など、工学、医学など様々な分野で応用が期待される内容であった。
 ワークショップ2件目は、平井修氏(日立化成工業)による「選択分解反応を利用したポリマーのキャラクタリゼーション」の講演が行われた。ポリマーの製品機能を理解するに際して、共重合組成のみならずモノマーの配列様式(シーケンス)やポリマー中の特定の官能基量の把握は重要である。本講演は、ポリアミドイミド(PAI)中のイミド結合を選択的に分解するPAIの低分子量化の手法により、PAIの材料物性に影響を与える微量尿素の13C NMRシグナルの検出感度を向上させた事例や、シロキサンユニットおよび芳香族ユニットで構成されたシロキサン変性ポリアミドイミド(SPAI)中のシロキサン結合の非水系ルイス酸による選択的分解により、SPAIの線膨張係数に寄与する芳香族ブロック鎖長の評価した事例など、高分子材料をさらに活用していく上で興味ある内容であった。
 最後に講演2件目として、中谷久之氏(北見工業大学)より「生分解化を目指したポリプロピレン劣化の基礎研究」の講演が行われた。ポリプロピレン(PP)は安価でかつ機械特性に優れるために幅広い分野で使用されている。しかし、PPは生分解性が乏しく、廃材として自然環境に排出された際に分解され難いため、カーボンニュートラル(炭素循環)化を目指す上での大きな問題となっている。本講演は、PPの光酸化劣化および熱酸化劣化の基礎、タルク中のFe系不純物が引き起こすPP/タルク(フィラー)系複合材の劣化促進効果、酸性雨中の硫酸イオンが与えるPP/タルク系複合材の劣化促進効果、酸化チタン含有ポリエチレンオキシドマイクロカプセルを添加したPP材の光劣化反応による生分解化法など、生分解性材料の世界の新たな可能性を感じさせる内容であった。
 講演およびワークショップの終了後には、講師の方々を囲んでの交流会が開催された。和やかな雰囲気の中で自由な情報交換が行われ、講演内容についてより一層理解を深めると共に、参加者相互の親交が深められた。

財団法人 機械振興協会 川口聖司




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