第352回例会報告

 高分子分析研究懇談会の総会ならびに第352回例会が、4月27日に五反田の「ゆうぽうと」で開催された。総会では、始めに2009年度の活動・会計報告が行われ、続いて2010年度の新運営委員、活動計画、予算案が承認された。また、2010年度は本研究懇談会の設立50周年に当たり、国際会議(兼第15回高分子分析討論会)等の記念事業が計画されていることが紹介された。例会では講演2件およびワークショップ2件が行われ、いずれも活発な質疑応答がなされた。
講演の1件目は、加藤久雄氏(キヤノン(株)機能部品開発センター)より「マイクロサンプリング質量分析法によるゴムの表面劣化解析」と題して、レーザープリンターに使用されているゴム部品の表面劣化を分析評価した例の報告であった。マイクロサンプリング質量分析法は微小部分分析法の一つであり、微小試料を昇温加熱により気化させてマススペクトルを測定することによって、試料の化学構造を明らかにする分析法である。極微量(ナノグラム単位)の試料量でも解析可能なマススペクトルを得ることができたり、1000℃以上まで昇温可能であるため難揮発性化合物のマススペクトルを前処理なしで得ることができたりする特徴がある。熱処理、UV照射、電子線照射等の劣化処理を行ったゴム表面を採取して分析したところ、分子切断が起きて低分子量化したことによるピークシフトと架橋が進んで高分子量化したことによるピークシフトが観測されており、ゴムの種類や劣化条件によって、表面組成変化や架橋密度変化において異なる挙動を示すことが明らかにされた。また、マイクロサンプリング質量分析法と顕微IR分析法やXPS分析法を組み合わせることによって、より詳細な分析評価が可能となることが報告された。
 ワークショップの1件目には、松原功達氏(日産化学工業(株)物質科学研究所)より「リアルタイムIRと多変量解析を組み合わせた高分子薄膜の反応解析」と題して、熱・光硬化性高分子薄膜の加熱やUV照射による分子構造変化をリアルタイムIRで解析した例が報告された。リアルタイムIR分析は、早い反応(ミリ秒単位)の追跡が可能であるうえに、同一試料で繰り返し測定を行うことから試料間の誤差を生じないし、バッチ分析と比較して試料数を少なくできるという特徴を持つ。加熱するとアセタール結合生成によって架橋硬化し、硬化後にUV照射すると架橋構造が分解するリワーク型モデル材料の架橋・分解反応の解析を行ったところ、熱硬化に伴うアセタール結合由来ピーク強度の増加や、UV照射によるアセタール結合の分解を追跡することが可能であり、硬化開始温度や分解終了時間を明らかにすることができた。さらには、リアルタイムIR測定による精度の高いIRデータに、主成分分析(PCA)や多変量カーブ分離−交互最小二乗法(MCR-ALS)といった多変量解析を組み合わせることで、より詳細な反応機構解析が可能であることが報告された。
 ワークショップの2件目は、真鍋礼男氏(住友電装(株))による「反応試薬を用いた熱分解ガスクロマトグラフィ/質量分析の活用事例の紹介」と題した講演であった。水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を用いた反応熱分解ガスクロマトグラフィは、0.1mgという極微量の試料量で簡易に短時間で精度良く分析できる点が特徴である。本講演では樹脂材料中に添加されているヒンダードフェノール型酸化防止剤の分析に適用した例が紹介され、ソックスレー抽出等を用いた従来法と比較して前処理を大幅に省略可能としたことが報告された。また、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂の劣化度の評価に適用した例も紹介され、反応熱分解で生じたメチル-4-メトキシブチレートを定量することで簡易に劣化を評価可能であることが報告された。なお、屋外暴露や熱酸化劣化したPBT樹脂の本法による劣化度評価結果は、自動車部品として用いられるワイヤーハーネスの走行距離に応じた劣化度の予想を可能としたとのことであった。
 最後に講演の2件目として、安藤慎治氏(東京工業大学理工学研究科)より「ポリイミドへの超高圧印加による秩序構造・凝集状態変化の計測と光・電子材料への応用」と題した講演が行われた。耐熱性プラスチックであるポリイミド(PI)は、酸無水物部分(電子受容体)とジアミン部分(電子供与体)が交互に繰り返す構造を有することから電荷移動(CT)相互作用が存在し、これが分子内だけでなく分子間でも働くことからPIの光学物性は分子鎖の凝集状態に依存して大きく変化する。従って、PIの光学物性の理解にはCT相互作用と分子鎖の秩序構造・凝集状態の関係を解析することが重要である。そこで、凝集状態を意図的に変化させるためにPI薄膜に8GPa(8万気圧)までの超高圧を印加し、透過X線散乱と光吸収/蛍光発光特性の変化を解析することで、圧力印加によるPIの秩序・凝集状態変化と光学物性の関係性を検討した。PIへの圧力印加によって分子間方向では圧縮によって分子間距離が短くなり紫外線吸収強度が増すことや、屈曲性の高い分子構造を持つPIへの圧力印加では顕著なコンホメーション変化を生じることが確認された。本報告の知見は、熱伝導性が飛躍的に向上するPIや、1.8を超えるような高屈折率を有するPIといった、機能性PIの分子設計に活用できるとのことである。
 講演およびワークショップの終了後には、講師の方々を囲んでの交流会が開催された。和やかな雰囲気の中で自由な情報交換が行われ、講演内容についてより一層理解を深めると共に、参加者相互の親交が深められた。

                            (株)メニコン 河合哲次





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