第346回例会報告

 高分子分析研究懇談会第346回例会が2月24日、五反田「ゆうぽうと」にて開催された。講演2件、ワークショップ2件があり、活発な質疑応答がなされた。ワークショップの2件は第13回高分子分析討論会で審査員賞を受賞されたものである。参加者は43名であった。
 最初に、小澤 智行氏(日産化学)より、「多変量解析を活用した材料解析〜高分解能LC-MSデータ解析の事例を中心に〜」の講演があった。材料の高機能化に伴いその組成は複雑になってきており、成分解析は一層難しくなってきている。これらの解析には、分子構造や部分構造の元素組成情報が得られる高分解能LC-MSnでの解析が有用であるが、情報量が多い故に多検体試料の比較解析では膨大なデータから有用な情報を見つけることは手間と困難さを伴う。その解決策として、多変量解析を用いることが提案された。多変量解析はいろいろな分野で応用され、多検体試料に共通の特徴的なピークを抽出し、視覚化することができる手法であるため、高分解能LC-MSデータの解析に最適であると説明された。講演ではインクジェットプリンター用染料インクの分類を例として、主成分分析(PCA)では多検体間の比較や全体の傾向の把握に有効であり、差異解析(t検定)では微小差の解析で有効であることなどいくつかの手法で何が分かるかが示された。また、これらの手法を染料インクのUV劣化の解析に応用し、微小の不純物ピークの抽出や相対的なピーク変動の解析にも有効であること、MSnスペクトルと多変量解析を組み合わせることで、劣化経路の推測が可能であることが示された。
 ワークショップの1件目は、高澤 信明氏(トヨタ自動車)による「有機ナノ近接場赤外分析技術の開発」であった。有機材料開発では表面特性に関わる官能基のナノレベルでの分布解析が重要である。しかし、これまでにナノレベルの高い空間分解能を有し、かつ化学結合情報を持つ分析手法が無かった。そこで、近接場光を用いた赤外分析技術に注目し、感度と空間分解能の向上に努め、従来の赤外分光法の約20倍の空間分解能(0.6μm)を達成し、自動車材料のナノレベル解析を実現したことが紹介された。感度の向上は試料を薄膜とし反射率の高い金属基板上で測定することにより、空間分解能の向上は探針近傍の近接場分布シミュレーションに基づく探針の細径化により達成された。また、この方法を内装樹脂材料や燃料電池材料の化学結合分布の測定に適用し、十分実用材料の解析に使えることが確認された。更なる空間分解能の向上が期待される。
 ワークショップ2件目は、百瀬 陽氏(徳島大学)による「13C-NMRスペクトルの多変量解析によるアクリル系共重合体の組成決定」であった。電子材料や情報材料には共重合体が用いられることが多く、要求性能も高度化しており、共重合体の構造因子(分子量、共重合組成、連鎖構造およびそれらの分布など)を制御し、材料性能の向上が図られている。そのため、これらの構造因子を正確に把握することが重要である。そこで、多成分アクリル系共重合体の構造因子に関する定量的な情報を得ることを最終目標とし、13C-NMR スペクトルの解析にはじめて多変量解析が導入された。講演では、その基礎検討としてメタクリル酸メチルおよびメタクリル酸t-ブチル二元共重合体の多変量解析による組成分析を行い、第1主成分ではモノマー組成を、第2主成分ではランダム性の情報を与えていることが示された。また、組成未知の試料のメタクリル酸t-ブチルを定量した結果、1H-NMR測定から定量された結果と0.3%の誤差で一致したことが示された。多成分系への適用が期待される。
 最後は岩崎 雄吾氏(名古屋大学)による「酵素による構造脂質類の合成」の講演があった。天然に存在する油脂やリン脂質は、結合脂肪酸や極性基の種類およびそのグリセロールへの結合位置を異にする様々な分子種の混合物である。構造脂質は、特定の脂肪酸を特定の位置に結合させた脂質分子のことであり、特定の化学構造を持たせることで脂質の機能(物理特性、栄養機能、化学的安定性など)を高めることが可能となる。このような構造脂質の合成には、酵素の位置特異性を利用した反応が有効であることが説明された。講演では、リパーゼやホスホリパーゼを用いた多種多様な構造脂質の合成例、およびそのための脂質異性体の分析法について紹介された。脂質異性体の分離ではAgイオン結合型シリカカラムやキラルカラムを用いたHPLCが有効であるとのことであった。適切な酵素の選択や酵素の改良を行うことで自在に有用な脂質が合成できることに感心させられた。
 その後、大谷 肇 運営委員長(名工大)の挨拶で例会を閉会した。
〔(株)豊田中央研究所 杉浦元保〕



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