第345回例会報告

 高分子分析研究懇談会第345回例会が1月8日、五反田「ゆうぽうと」にて開催された。講演2件、ワークショップ2件があり、活発な質疑応答がなされた。参加者は52名であった。
 最初に、黒子 弘道氏(奈良女子大学)より、「固体NMRとNMR遮蔽計算を用いた構造解析」の講演があった。固体NMRは高分子の高次構造を決定する上で有用な手法として普及している。また、量子化学に基づくNMR遮蔽計算は有力な理論実験であり、両者を併用することでより詳細な構造解析ができるとの説明がされた。NMR遮蔽計算に必要となるハードウェア、ソフトウェアについての説明の後、Gaussianを用いた計算の手順について説明された。分子座標の構造最適化手法として従来はHartree-Fock(HF)法が使用されてきたが、最近では密度汎関数(DFT)法が用いられるとのことであり、低分子成分についてHF法とDFT法を比較したところ、DFT法のほうが実測値と良く一致するとのことであった。応用例としてL-プロリン残基を有するα-ヘリックスポリペプチドのコンホメーション解析を行い、L-プロリン残基はα-ヘリックス中に巻き込まれた構造を形成していることの説明や、Poly(ethylene-co-1,5-hexadiene)の結晶構造解析を行い、hexadieneが増加することで斜方晶から六方晶に変化することを確認し、その結果がXRDとの結果と一致することが紹介された。
 ワークショップ1件目は、角出 泰造氏(メニコン)による「使用済みコンタクトレンズケースより回収された微生物のMALDI-MSを用いた同定」であった。近年、レンズケア市場の主流となっているマルチパーパスソリューション(MPS)中の細菌及び真菌をMALDI-MSにより同定した内容について説明された。従来細菌等の同定には、表現形質解析法や遺伝子解析法が用いられたが、MALDI-MSを用いることで、短時間で数多くの細菌の同定が行えるとのことだった。測定に係る前処理もコロニーからギ酸、アセトニトリルでタンパク質を抽出するのみであり、非常に簡便となっていた。同定はデータベースとの比較により実施しており、臨床試験では検出された659のサンプル中644サンプルの同定が可能であった。
 ワークショップ2件目は、埴原 鉱行氏(ライオン)による「LC-ESI-MS法によるPOE系界面活性剤の分析」であった。ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)が複数配合されている洗剤は炭素数の異なるアルキル鎖や複数のエチレンオキサイド(EO)鎖を有するため、LC-ESI-MSによる正イオン検出では、多種の付加イオン(H+、Na+、NH4+等)の生成や、多価イオンの生成によりマススペクトルが複雑になり解析が困難となる。今回、逆相系の分離カラムを用いて、移動相としてギ酸0.02 mM、ギ酸セシウム0.05 mMを含む85%メタノールを使用し、+20〜80 Vのコーン電圧グラジエントを行うことで、セシウム付加イオンのみの単純なマススペクトルを得ることができることが報告された。また、分子量が同一である同炭素数鎖の一級AEと二級AEを上記条件にて完全分離することが可能であった。定量においてはマススペクトル中の最も強度の高いピークを使用し、1〜50 ppmの範囲で原点を通る直線が得られ、直線性も良好であることが示された。
 最後は林 俊一氏(新日本製鐵)による「超音速分子ジェット多光子イオン化法を基本とする環境負荷物質のオンラインリアルタイム計測技術の開発」の講演があった。環境汚染物質の排出規制が厳しくなる中、焼却炉等からの環境汚染物質の排出挙動をリアルタイムに確認する必要があり、今回超音速分子ジェット多光子イオン化質量分析法(JET-REMPI-MS)の原理及び装置開発に関する説明がなされた。JET-REMPI-MSは気体を真空中で断熱膨張させ、そこに測定対象成分に応じたレーザー波長を照射しイオン化する方法で、排出ガスを前処理することなくオンラインで分析することが可能との事だった。また、イオン電極の改良やポテンシャルスイッチの設置等により、pptレベルの高感度化を達成できたとのことだった。未知成分の同定に向けた取り組みも行われており、今後の進展が期待される。
 その後、会場を移し講師を囲んでの新年会があり、有意義でなごやかな雰囲気の中で例会を閉会した。




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