第344回例会報告

 13年ぶりに改訂された高分子分析ハンドブックの刊行記念講演会として、高分子分析研究懇談会第344回例会が9月19日に工学院大学新宿キャンパスにて開催された。台風13号が近づく中での講演会となったが、81名が参加された。
 本研究懇談会運営委員長 大谷 肇氏(名古屋工業大学)による開会挨拶の後、最初にハンドブック編集委員長 高山 森氏(三菱化学アナリテック)による「歴代の高分子分析ハンドブックに見る高分子分析の進歩」と題した講演が行われた。当初12名でスタートした本研究懇談会が現在110名超(法人を含む)まで発展してきた経緯の紹介と歴代高分子分析ハンドブックの展望から、「見えないものが見えるように」、「平均でなく個々の構造が」、「平均濃度ではなく分布状態が」測定可能となった具体例を挙げ、高分子分析の進歩は機器分析の進歩であることを説明された。また、ユーザーの立場に立った編集や時代に先駆けたCD-ROM版導入など、ハンドブックの特徴をまとめられた。HPを通した読者とのコミュニケーションや英語版刊行の検討なども含め、これらの編集姿勢がハンドブック普及につながったと思われる。高分子分析の今後のあり方としては、開発を先導するKnow howだけでなく、性能発現機構解明につながるKnow whyの重要性が増すとのお考えを示された。ハンドブックの記述が裁判の判断に引用された例、ノーベル賞受賞に8年先んじて田中耕一氏(島津製作所)による講演を例会で実施していた例を紹介することで、高分子分析の重要性と社会への貢献を示し、講演を締めくくった。
 2件目の講演は、佐藤 浩昭氏(産業技術総合研究所)による「ソフトレーザーイオン化質量分析法による高分子分析の新展開」であった。ポリマーの構造解析に有力な技術として急速に発展してきたマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS)の課題とそれを克服するための最新の解析技術を概説された。多分散ポリマーへの適用の困難さについては分取SECとの組合せ、さらにはカラム内拡散抑制のためモノリス型キャピラリーカラム、マスディスクリミネーション効果の抑制については超伝導検出器による高感度検出、高分解能測定への挑戦についてはフーリエ変換型イオンサイクロトロン共鳴(FT-ICR)質量分析計やスパイラル(マルチターン)型TOFMS、マトリックスの問題(マトリックス自身によるスペクトルの妨害、試料との反応、イオン化困難など)には表面支援レーザー脱離イオン化(SALDI)など、課題克服のための最新技術が紹介された。ハードウェアの進歩に支えられた解析技術であるが、その時々で出来ること、出来ないことの理解の重要性を認識できた。
 3件目の講演は、右手 浩一氏(徳島大学)による「NMRとクロマトグラフィーによる合成高分子のキャラクタリゼーション:一次構造の分布を調べる」であった。合成高分子は構造パラメータに連続的な分布を持つことを特徴とするが、高分子の化学構造分布を分析する手法としてNMRと各種分離手法の組合せについて概説された。SEC-NMR法ではPMMAやEPDMの共重合組成の分子量依存性を、分子量に依らない分離が可能なLCCAP(臨界吸着クロマトグラフィ)-NMR法ではPEMAの立体規則性分布を解析した例を紹介された。In tube クロマトグラフィと呼ばれるDOSY-NMR法をEPDMに適用し、Dienのシグナル観測可能なことから同手法のポテンシャルを示されたが、ラプラス変換の難しさを課題として挙げられた。また、官能検査済み日本茶53種についての13C NMRスペクトル主成分分析から得られたmetabolic profiling、MMA/HEMA共重合体43種についての13C NMRスペクトル多変量解析から得られるHEMA組成、立体規則性分布解析を例として、NMR−ケモメトリクスの高い可能性を指摘された。
 最後は寺前 紀夫氏(東北大学)による「DNA二重鎖中の脱塩基空間を反応場とする化学センシング」の講演があった。前半部では、学生時代のMCD分析から助手時代にLC-IR/Raman/MS、FTIR-PAS/MCDなどの装置を自作した研究、SERSを利用した表面吸着分子の反応特異性解析など、過去の研究暦紹介とそこから得られた数々の教訓について述べられた。後半部では分子設計/分子認識に関わる演題研究へと話が進んだ。DNA二重鎖から塩基を除去した疎水的脱塩基空間は、上下塩基とのπスタッキング、対向する塩基との水素結合、ホスホジエステル部位との静電相互作用といった明確な分子間力により、化学センシング可能な反応場となりうる。塩基変異や生理活性有機小分子を蛍光分析により選択的検出した具体例を紹介された。最後には、博士課程在籍時のヒマラヤ7000m峰山行について語り、普段とは違う一面をのぞかせた。
 講演会の後はハンドブック刊行を記念した祝賀会があり、編集委員、執筆者の労をねぎらうとともに、講師を囲んで有意義な時間を過ごし、なごやかな雰囲気の中で例会を閉会した。
(旭硝子株式会社中央研究所 山本清)


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